2006.7.29 中潮 水温26℃ 北西の風強し
梅雨明けした最初の土曜日は、県議会議員選挙のための事務所開きでお誘いがかかり、夜明けとともに出発するはずが正午の出航へとずれ込んでしまった。
これにより青物に的を絞った早朝のナブラ打ちは明日へと持ち越し、ロングビルミノーを用いたライトトローリングを姫島周りで試すことになった。
姫島へはある港から出るのだが、ここへ向かう途中、インフレータブルボートを乗せた車が次々と戻っていくのを見る。私はそのすれ違う車を指しながら、「ほら、本当は朝イチで釣って昼の今頃帰るのが夏のパターンなんだ」と2人の息子に説明をした。しかし、彼らが戻る最大の理由は他にあったのだ。このとき私はその理由を知らなかった。
さて、この港から向かう姫島までは凪に近い。運転を長男に任せながら、遠くに見えるのが四国であることを知らせた。大分県は今日も高気圧に支えられ、空も海も鮮やかな青さをしている。
一方、エンジンの回転数を2500程度に押さえ、ラパラのテイルダンサーというロングビルミノーをライトトローリングで引っ張る。ラインは30m~40mくらい出ているだろうか。
あまり沈めすぎないよう、スピードとラインの長さに気を配った。魚の反応の多い水深10m程度にねらいを定めてはいたが、実際にルアーが何メートル潜っているのかはわからなかった。
姫島が近づき、セメント工場に近づく。ルアーへの反応は未だなく、フェリー乗り場の前を通り過ぎ、島を一周してみることにした。2人の息子は姫島は初めてだ。上陸してみたいと言ったが、一回りしてからでも遅くないと私はなだめる。
島をまわりはじめて運転を次男に任せることにした。
小学校2年生といえどもやはり男の子だ。運転に興味を示す。「やってみるか?」という問いかけに戸惑うこともせず、「やってみてえ」とシートに座り、ハンドルにしがみついた。とはいえ全てを任せるわけには行かない。私は息子の後ろに座り、アクセルコントロールを務めることにした。
トローリングスピードでゆっくりと進みながら息子と島の様子を見る。相変わらずルアーに反応はないが、初めて近づく姫島に興味を示しているようだ。
島をぐるりとまわり、国東半島から見て裏側につくと風が強くなてきた。ところどころではあるが、波もかなりうねっている。この日は午後から北風が吹くパターンだったのだ。息子から運転を代わり若干先へ進めてみたが、これではダメだと引き返すことにした。子供を連れて無理することもなかろう。
無理をせずきた道をゆっくり引き返していると、何の前触れもなくエンジンが止まった。
「ええっ?」
思わず緊張する。
場所は拍子水温泉健康管理センター付近。稲積漁港の裏側あたりだ。
一旦キーを戻しひねり直すと、バッテリーやオバーヒートの警告ランプはつかない。
これが示すとおり、エンジンに原因がないとすれば原因は何だろう。エンジンに向かうガソリンチューブをチェックする。次に手で握る手動ポンプを揉んでみた。ガソリンが流れていない。
よく見ると、ポンプからガソリンがにじみ出ている。ゴムを溶かして黒くオイル状になってもいる。
「これはやばいぞ」
そう直感した。
ボート乗りには、いつかトラブルで流されるかもしれないと言う覚悟がある。とうとうその時がきたか・・と私は感じた。見れば遠くまで大海原は続いている。ここを流されていくのか・・・。
しかし、2人の息子の前で不安を悟られるわけには行かない。まずは何らかの対処をしよう。
そうだ、アンカーを降ろすか? いや待て。私のHHにはエレキがついている。これで近くの漁港まで進もう。長男に操作を任されたHHは、もどかしいくらいのスピードで漁港に近づいていく。
では、漁港についたとしてどうするか。漁師に見てもらうと修理代を吹っかけられるかもしれない。なんとか我がトレーラーまで移動させたい。
そしてのんびり待つこともしたくない。他に原因はないかと考える。得体の知れない緊張と浮き足立ちそうな高揚感を抑えながら考えを巡らせた。
と、ある考えが頭をよぎった。
そういえば今日、ガソリンを入れるとき、タンクに付いているバルブに手が触れた。私は吸気口を閉めてしまい、ガソリンの減ったタンクが真空状態になっているのではないか。
すぐさまハッチを開け、ガソリンタンクのバルブをひねってみる。だが、どちらにひねればいいのかわからない。ならばと、今度はタンクのキャップを開けてみた。
「シュ~ッ!」という音とともに、外気がタンクに吸い込まれる。中の空気はかなり薄かったようだ。原因はこれかもしれないぞ。そう願いながら、続いて後部の手揉みポンプを握ってみる。するとどうだ、ガソリンが流れてくるのがわかる。スカスカだった黒いポンプに手応えが伝わる。
「やった!」
十二分にポンプを揉んだ後、慎重な趣でエンジンをかけてみた・・。
「ブルルン・・」
エンジンはかかった。よかった。これで流されずにすむ。救助に大金を払うこともない。
その間、私がどんな顔をしていたのかわからないが、息子達に何事もなかったかのように装い、トラブルは故障ではないから今後も問題はないことを伝えた。
ここからは、午後から北風の立ったうねる豊後水道を、エッチラオッチラと港に向かった。
高い波をかわしきれず、時折潮をかぶる。しかし、それほど苦でもない。なぜならエンジンは快調だからだ。
今回のポイント
1.この時期は、朝は凪でも昼から北風が吹くパターンのようだ。
2.海が安定する夏といえど、事前に海の状態をネット等で必ず確認すべし。
3.ガソリンタンクは吸気バルブを常に開いていること。加えてガソリンキャップもゆる
め気味でよい。